Hate you , Love you

 一寝入りして起きても、まだ授業は終わってなかった。ベッドから出て、周りを囲っていたカーテンから出る。しん、と静まりかえった部屋。ひとけがない。


「――――――・・・・・ひーちゃん?」

「・・・・・ひーちゃん、今職員室。」


 くぐもった声がひーちゃんのかわりに答えた。ぎょっとして見ると、ひーちゃんのデスクの横のテーブルに突っ伏した男子生徒がひとり。ちっとも気付かなかった。びっくりしたのはそれがキョウだったからだ。


「何でここにいるわけ。」

「体調不良。」

「うそつけ。」

「・・・・・だって何かお前気になって。」


 キョウは顔を伏せたままぼそぼそと答えた。いつもと全く違うキレのなさと、キョウの言葉にあたしは首を傾げた。よくわからない。人のことを鉄の女呼ばわりした男の態度ではない、明らかに。


「・・・・・本当に体調悪いの?」

「悪くない。」

「なにそれ。さっきと言ってること違うし。つまりサボりかよ。」

「・・・・・。」

「おい。」


 キョウが答えないので仕方なくひーちゃんの本棚から文庫本を1冊とって、キョウの隣に座る。今更寝る気になんてならないし、今のキョウはなんか変だ。ふぬけているくせに、出しているオーラは体育館から保健室まで怖い顔して歩いていたときと同じ。よくわかんないけど、変。なんか、変。


「キョウ?」

「・・・・・ぁ・・・・・」

「え、何?」

「・・・・・・・・・・・・・・・ごめん。」


 低くくぐもった声だった。キョウは突っ伏したままだから、顔は見えない。めずらしく真剣な響きで、あたしは逆に困ってしまった。なにを、急に。何について、ごめん?キョウはそのままぼそぼそと続けた。


「さっきひーちゃんと話してて、ひーちゃんがアヤが怪我したのは俺の監督不行届きだったからだって言われて。・・・・・俺もそうだと思うし。」

「・・・・・何、どうしたの急に。」

「さっきもさ、俺はタケを励ますつもりで言ったけどさ・・・・・アヤの気持ち考えもせずに。あんなこと言われて気分いーやついないよな。」

「ね、熱でもあるの、キョウ。」

「・・・・・俺、最低。」


 あんまりびっくりしたから、尋ねた声もひっくり返ってしまった。キョウはひとり沈んだ声で、自己嫌悪の言葉を吐き出した。ひーちゃん、ここまでへこますことないじゃん・・・・・確かに気分は良くなかったけどさ。ちょっと泣きそうだったけどさ。


「気にしてないって。いつものことじゃん。」

「でも嫌だったろ?」

「・・・・・。」


 本当にどうしたんだろう、急に。調子が狂ってうまい切り返しができない。あいかわらずキョウは顔を自分の腕にうずめたまま、ぼそぼそとしゃべる。顔が見えないから、わからない。キョウが何を考えて、話してるのか。


「・・・・・ごめん、俺、」

「や、でもキョウが言ったこと全部本当のことだし。あたしが女だっつったら、他の女のコに失礼だよなー」

「違う。アヤはちゃんと女のコだよ。」

「・・・・・なッ・・・・・!!」


 たぶんあたし、今顔真っ赤だ。キョウにそんなこと言われるなんて思っても見なかった。女のコ、なんて。あたし、が?可愛くないだの、女じゃないだの、さんざん言われてきた、・・・・・キョウにもそう言われてきたのに。
 何よ、それ。
 きらいきらいきらい大嫌い。何、それ急に。女のコって言われただけで真っ赤になってるあたし、馬鹿みたいだ。きっといつもの冗談だ。後からまた、いつもみたいに「お前のどこが女なんだよ」ってきっと、そう言う。・・・・・だいきらい。


「何冗談言って・・・・・」

「冗談じゃねぇよ。・・・・・アヤ、二の腕とかすっげぇやわらかいし。」

「ど、どこ触ってんだよ!」

「保健室来るときだよ!体育館から!俺、それすっげぇ反省したんだからな、いろいろ!!」


 バッと顔を上げてキョウは言った。ヤバイ、顔赤いのバレる。キョウが悪い。いつもと全然違うこと言うから。調子が狂うんだ。だめだ。きらいきらいきらい藤野キョウなんてきらい。


「こないだふざけて殴ったとき痛かったかな、とか!・・・・・いろいろ。お前、痛いとか怖いとか傷ついたとかそういうの、全然言わないし、だから、俺、」

「・・・・・うるさい。痛くなかったよ馬鹿。」


 だからもう何も言わないで。まるであたしの気持ち見透かしたみたいに言わないで。いやだ。だめだ。きらいきらいきらいキョウなんて好きじゃない。このままだと止まらなくなるかもしれないから。あたしは女のコじゃないから、恋、なんてしちゃいけないのに。キョウが女のコなんて言うから。もういやだ、・・・・・こっち、見ないで。


「ぇ、ちょ、アヤなんで泣いて、・・・・・・!?」

「泣いてない!!」

「うそつけよ!もしかして足痛い?つか俺?俺が泣かせてんのこれ?な、何で泣いてんの?」

「泣いてないもん・・・・・!!」


 隣の椅子でキョウがわたわたしはじめた。人前で泣いたのなんて何年ぶりだろう。ぬぐってもぬぐっても涙が出る。何であたし泣いてるのかな。ちがうのに。泣きたかったわけじゃないのに。
 たぶん、もう好きすぎて。


「キョウなんか大ッ嫌い。きらいきらいきらいきらいきらい。」

「ご、ごめん。」

「も、やだ。あたし、」

「でも。アヤ、俺、」




「キョウのことが好きなの!」

「アヤのこと好きだから!」




 ・・・・・。たっぷり30秒沈黙。きれいにかぶってしまった声はもしかして幻聴?確かに聞こえた。聞いたけど、でも、本当に?あのキョウが、あたしを、好き?同じように隣で固まっていたキョウが身じろぎした。


「・・・・・まじ?」

「・・・・・そっちこそ。」

「・・・・・今更冗談とかナシだぞ。」

「・・・・・その言葉そっくりそのまま返すわ。」


 うそ、でしょ。そんなわけない。ずっと、そうだったらいいのに、って心のどこかで思ってたこと。だけどありえっこないって封印した気持ち。きらいきらいきらいだいっきらい。それがあたしのおまじないだった。――――――本当、に?


「・・・・・信じらんねぇ、絶対アヤは俺のこと嫌いだと思ってた・・・・・。」

「・・・・・それはこっちの台詞・・・・・。」


 再び、沈黙。頭の整理ができてないから。
 きらいきらいきらいだいきらい、なんて嘘。すきすきすき世界でいちばん。あんなおまじない今日で最後にする。他にもっとちゃんと口にすべき言葉があることに気付いたから。

 お互いに、ね。


「すき」

あとがき 061215
保健室の外でひーちゃんが忍び笑いしてるに違いない。
男勝りな女の子と愛情表現裏返しな男の子が書きたかったんだけど、・・・・・何か違う。長い上にくだらない。すみません。
ありがとうございました。
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