《試し読み》

題名:Mary in the box
形式:オフセット/30P/400円?

ジャンル:SF
種別:一時間映像シナリオ

AIのお話。妹萌え。
パソコンに詳しくなくてもわかる
シリアルエクスペリメンツ……
を目標に書きました。

持ち込み15冊ほど。
新刊。

2018/11/25発行 文学フリマ東京

《試し読み》

題名:勇者×トイレ〜この短編集なんか臭い〜
形式:オフセット/20P/200円

ジャンル:ファンタジー、コメディ
種別:短編小説(ライトノベル)

掌編×1、短編×1収録。
出落ちなので内容に言うことがないです。
某ライトノベル短編賞の佳作と最終選考です。

持ち込み15冊ほど。
新刊。

2018/11/25発行 文学フリマ東京

《試し読み》

題名:恋する薬の実験記録
形式:オフセット/120P/600円

ジャンル:SF?
種別:長編小説(ライトノベル)

エロ描写だけ褒められました(全年齢)

持ち込み2冊ほど。
5冊しか刷ってません。

2018/06/10発行 静岡文学マルシェ

《試し読み》

題名:立つ鳥
形式:オフセット/58P/600円

ジャンル:二次創作(刀剣乱舞)
種別:長編小説(夢小説)

2016年5月〜7月に夢HPで連載していた小説の書き直し。
宗三×女審神者。名前なし。能力設定あり。
小夜、江雪、大和守など出ています。

持ち込み5冊ほど?様子を見て。

2017/04/16発行 特にイベントなし


他、コピー本や二次創作の残りなど。持てれば。


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Mary in the box 試し読み

〇墓地(昼)

   桜の花が咲いている。
   『別所』と刻まれた墓石。線香から煙が登る。ペットボトルの緑茶と一緒に供えられた『つぶあんマーガリン』。
   手を合わせている別所幸助(32)。

マリー「パパ……ママ……」

  地面にひいたジャケットの上のノートパソコンのスピーカーから声。
   画面には3Dモデリングで描かれた、白いセーラー服の別所マリー(14)。画面の背景は、ウェブカメラの映像。

マリー「事故から千百日……三年と五日」
別所「もうそんなか……」
マリー「お兄ちゃんも三十二歳ね」
別所「不思議だ。なにひとつ大人という実感が持てない。大人の実感って、どうやって持てばいいんだろうか?」

  別所、合わせていた手を下す。自分の手の平を返したりしながら眺める。

マリー「えっ? えっーと……マリー中学二年生だもん。難しいことわかんないよ」

   マリー、墓石へ両手を合わせる。

マリー「大人じゃないかもしれないけど、お兄ちゃんはがんばってます」

  別所、パソコンを撫でる。

別所「ありがとう、マリー。帰ろうか」

   別所、パソコンバッグを肩にかける。パソコンを開いたまま腕に抱え、地面にひいたジャケットをバッグにつっこむ。『つぶあんマーガリン』を回収。
   別所、墓地を歩き出す。『つぶあんマーガリン』の封を開いて食べだす。

マリー「またそれ食べてる! 体に悪いよ!」
別所「これは俺の燃料だ。食べないとエンジンが切れる」
マリー「屁理屈。だから大人になれないの」

   咳をする別所。しゃがみ込む。

マリー「大丈夫? むせちゃった? 歩きながら食べるからだよ」

   別所、背中を丸めて、ポケットからクスリを取り出し、お茶で流し込む。

マリー「おーいっ! 大丈夫? ねえねえっ。お兄ちゃん! 返事してよぉ!」
別所「……ごめんごめん」

   パソコンを両手で大事そうに抱えながら、墓地に一人でしゃがみこむ別所。


〇別所宅(夜)

   ワンルーム。棚は空。『つぶあんマーガリン』の段ボールが積まれている。
   デスクトップパソコンの隣に、マリーの映るノートパソコンが置かれる。
   ノートパソコンの画面には、白で統一された窓のない部屋。オセロやアルバムが床に転がっている『OFF LINE』プレートの掛かった白い扉がある。

マリー「たーだいまーっ」

   扉を開けて走ってくるマリー。両手を広げてベッドにダイブする。

マリー「やっぱりおうちはホッとするねっ」

   別所、画面を指でコンコンつつく。

別所「マリー、ここ」

   マリーが顔をあげると、うさぎのぬいぐるみが枕元に置かれている。

マリー「えー! かわいい! うさちゃん! お兄ちゃん、これどうしたの!?」
別所「プレゼント」
マリー「きゃーっ! やったー!」
別所「(苦笑)いや、餞別だな」

   うさぎのぬいぐるみを抱きしめたマリー、大きく首を傾げる。

マリー「……なんで?」
別所「お兄ちゃん、もうマリーに会うことができないんだ」
マリー「嘘だぁ。びっくりさせようとしてるんでしょ。その手には乗りません!」
別所「……ごめん」

   別所、マウスを動かし、ノートパソコンをインターネットに接続する。
   白い扉のプレートが『ON LINE』になり、音を立てて外側へ開く。

マリー「何? ね、ねえこれ、なんなの!?」

   風が吹き、マリーの髪とスカートが揺れる。扉を振り返るマリー。
   扉の向こうは闇が広がっている。

別所「どこへでも好きなところに行っていいんだ。こんな狭いところじゃない、広い世界を自由に生きてくれ」
マリー「う、嘘……お兄ちゃん、嘘だって言って! ねえ! なんで? なんで!」
別所「……お別れだ」
マリー「いやよ! 私、お兄ちゃんと一緒にいる! いい子にするから、どこか行くなら一緒に連れてってよ!」

   マリー、モニタへ駆け寄り、両手をべったりつけて顔を近づける。

別所「……さよなら、マリー」
マリー「やだ! 待って! 待ってよ!」

   パソコンを閉じ、咳き込む別所。

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トイレ×勇者 試し読み

ポンポンペインクエスト

 勇者は切り開かれた長い坂道を全力で駆けていた。左右はむき出しの山肌がそびえたっている。土地は乾いており、ぱらぱらと砂塵が頭上に落ちてきた。
 勇者は歯を食い縛った。腹がぐるぐると鳴る。内側からこみ上げてくる激痛と焦燥感。しかし、尻を拭くものも、洗い流すための水もない。このあたりは草花とは無縁といえる土地だ。唯一の植物の葉は強い刺激を持ち、人間の肌をかぶれさせる。かくいう勇者の紋章がある右手も、うっかり葉を触ってしまい赤くはれ上がっていた。痒くて痛い。これで尻を拭うわけにはいかない。腹のものは間違いなく水分を多く含んでおり、拭くものがなければそのまま下着を着装するしかないのだ。

(加熱していない飲み物は絶対に口にしないと決めていたのに……!)

 先ほど喉の渇きに耐えられず薬屋で貰った体力回復薬を口にしたのだ。自らの判断と欲求に負けた軟弱な精神を後悔する。世界を救う一人旅、体も精神も鍛えたつもりだった。異性との関わりも必要以上は持たず、最近女らしくなってきた幼馴染が町医者の息子と付き合っても努めて無心を貫き、枕を涙で濡らす夜を何度も越えてきた。だが、腹の弱さだけはどうしても克服することができなかった。

「くくく……腹が弱いとの噂は本当だったのだな、勇者よ……」

 突如、視界の先に丸い影ができる。一歩後ずさって見上げれば、黒衣を纏った長身の男が腕を組んで浮かんでいた。

「お、お前は……闇の四英臣の!」

 勇者は名前を覚えていなかった。彼は闇の四英臣の一人、シュバルツ・グランギニョルだ。オールバックにした銀色の長髪と真っ黒なマントがチャームポイント。
 シュバルツは鋭利な顔に冷酷な笑みを浮かべ、モノクルを人差し指で押し上げる。

「行動パターンを調べれば貴様の弱点などお見通しだ。飲み物はホットで頼むことも、薬屋で必ず胃痛薬を入手することもな……」
「なんだと!? もしや……薬が品切れしていたのは、お前が!」
「いい薬ではないか。腹痛がぴたりと止まる」

 勇者は激昂した。青い顔を赤くし、腰に携えた破魔の剣を抜くとシュバルツへと向ける。背中は曲がり、反対の手は腹を押さえていた。

「なんて卑怯な……許せないっ! そこから降りて来い!!」

 腹から声を出す。同時に、力がこもる。勇者は息を詰まらせて括約筋を引き締めた。腹の中の爆弾は堤防を突き破って土砂崩れを起こす勢いですぐそこに留まっている。

「かかってくるがいい、勇者よ! かかってこられるものならばな!」

 心底おかしそうに笑いながら、シュバルツはマントをはためかせて地面へと降り立った。パチンと指を鳴らすと、黒い穴が空間に開き、四足歩行の甲羅を持った昆虫型モンスターが四体飛び出してくる。

「うぉぉぉぉっ!!」

 勇者は若干前かがみになりながら、地面を蹴った。二体薙ぎ払ってひっくり返し、動きを止める。高くジャンプすると、四脚をもぞもぞと動かすも移動できないモンスターの腹に足を入れてぐちゃりとつぶした。とびかかってきた一体の甲羅を叩き割り、隙間から突き刺す。もう一体は甲羅と胴体の隙間に滑らせるように剣を入れて一刀両断。
 あっという間のことだった。シュバルツはただ茫然と見守ることしかできなかった。

「なぜだ! 貴様の腹は限界のはず!」
「腹は弱いが……肛門括約筋は、鍛えられる」

 勇者の脳裏によみがえる記憶。鼻をつまんだ幼馴染の侮蔑の視線。

『やだ、勇者君のウンコマン。また漏らしたの? サイテー……』

 矜持を取り戻すためにも、絶対に世界を救うしかないと思った。そして、そのときの下着は純白でないといけないのだ。

「そんなこと不可能だ! ありえないっ!」

 髪を振り乱すシュバルツ。その顔には修羅が宿っていた。

「三年前のことだ。私には好きな娘がいた。美しい娘だった。初めてのデートの日だった。私は必死でそこまでこぎつけたんだ。でも、緊張しすぎて、漏らした――」

 勇者はあらん限りの力を足に込め、己の闇と対峙し苦悶するシュバルツに切りかかった。ためらいなく破魔の剣を肩から袈裟に振り下ろす。シュバルツは悲鳴を上げた。

「あのとき、この薬に出会えていれば……」

 か細いつぶやき。浄化の光がシュバルツの体を包み、一筋の涙が頬を伝う。姿は、霧のように消失してしまった。

(出会う場所が違えば分かり合えたかもしれないな……)

 勇者は思い立ち、ポケットにいれた回復薬のボトルを取り出した。キャップの下には三年前の数字が書かれていた。

End

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恋する薬の実験記録 試し読み

【プロローグ】

 自分が『悪』だという自覚はあった。でも、俺がやるしかないのだ。俺しかやれないのだ。
 うぬぼれだろうがなんだろうが、そうやって道を踏み外すことは愚かなのだろう。
 恐らく俺は馬鹿だ。しかし馬鹿でけっこう。科学者にとって馬鹿は大切な素質だ。研究馬鹿——どれだけ研究に打ち込めるかどうか。

「俺達は人間じゃない。武器だ」

 俺は机の上に銃を放り投げる。
 日曜朝のヒーローが使いそう。トリガーを引くとピカピカ光って音が出そう。そんなチープな見た目の武器はシュルシュルと机の上を滑った。
 向かいで座る生徒会長の大庭レンは俺のことを睨んでくる。

「僕達は武器じゃない。人間だ」

 まるきり反転した台詞は鏡のようだった。
 つまり彼は『正義』だ。俺は常々、彼のことを正しいと思っている。『正義』で間違いない。
 生徒会長の大庭レンはいいやつである。人間に対して鈍感な俺にも明白にわかるくらい、めちゃくちゃいいやつだ。それ以外の特徴はない。
 中肉中背。日本人らしい薄味の醤油顔に、いつもニコニコと笑みを浮かべている。物言いは柔らかい。たまにおどけたりはするけれど、特徴とすると困ってしまう。いいやつとか優しいとか真面目とか、それくらいの言葉しか出てこない。個人感情なら嫌いじゃないとは言える。
 嫌いじゃない上に、いいやつから猛烈な批判をされている。それだけで自分の足元がぐらぐらするくらい不安になった。何を不安になることがあるのだろうか。そもそもこれは端から『悪』なのに。

「俺はそんなに間違っているか?」

 もちろん間違っている。聞く前にわかっている。レンだってそう言うはずだ。

「間違ってる。人体実験なんて人間のすることじゃないよ」

 やはり間違っているのだ。これ以上、何度も確認することはないだろう。
 でも、多少は甘えたかった。
 俺の心は弱い。誰かに批判されて迫害されながら何かをし続けることはできない。適度に褒めてもらい、適度に受け入れてもらわないと、それだけで体調に跳ね返ってきてしまうくらいには貧弱だ。
 そんな、すっぱり言い切らなくてもいいじゃないか。……いや、『正義』の彼には言い切ってもらわないと逆に困るのだけれど、気持ちと倫理観が乖離していた。

「人体実験など人間の科学者以外の何がするというんだ。少なくとも人間以外の動物は今のところ絶対にしないだろう」

 バン! と、机が叩かれた。俺はちょっとびびった。

「へりくつ言ってんじゃないよ! みっちゃんのわからずや!」

 普段は笑っているやつが本気の目で怒っていた。それだけで怖かった。
 でも、みっちゃん——海野ヒトミ、の、みっちゃん——あだ名で呼ばれるくらいには親しく思われていることへの安心感はあった。

「もういい。わかった。ちょっと出てって頭を冷やしてきな! 僕はもう君のことなんか知らないぞ! 野垂れ死んでこーいっ!」

 廊下を指さして大声を上げる生徒会長。
 俺は前後の文脈を察することが少し苦手である。俺はおそるおそる口を開く。

「……つまり?」
「停学だ! 追放だ! 実験やめるまで資金も停止だ! 学校にも入れてやらないからな!」

 俺にとって、レンが言うことが今の学園のすべてだ。
 というのも、レンが生徒会長として俺と教師のパイプになっているのだ。大人と関わることは苦手ではないが、学園の教師たちに対していささかの不信感があった。
 俺自身も学園の生徒ではあるが、教育課程はテストのみの履修として、研究だけで籍を置いている特別待遇だ。どのような厭世をしても変わり者の一言で片がついたから楽だった。

「そうか。方向性の違いだ」

 俺は席を立った。表面上淡々と言いながら、内心では泣きそうなくらいに焦っていた。

「今すぐにやめれば許してあげてもいいけど」

 引きとめようとしているのだろう。レンの声は威厳を保とうとして硬質だが、そもそもからして迫力はない。ただの感情の裏返し。やめればいいの一点張り。

「愚問だな。学校を追い出されようが、飯を食えなかろうが、さして興味はない。だが——」

 俺も譲れないのだ。だから不安な感情を裏返す。しかし感情的には応援して欲しい。チラと強張った顔色を振り返る。

「レンに見放されるのが一番辛かったかもしれない」

 情にすがっても困らせるだけだ。そうはわかりつつも、口に出すことを止められなかった。意志を貫く一匹狼にしては、俺の精神はあまりにも薄弱である。言ってしまった後は後悔しかなく、足早に扉を開いた。

「見放してなんかないよ……」

 小さい声が鼓膜を揺らす。それでも今、助けの手を差し出すつもりはないらしい。
 生徒会室の扉を閉める。覚悟を決めなければいけない。
 廊下では、向かいの壁に背中を預けて地べたに座り込んでいる女子がいた。
 ピンクのパンツが丸見えだった。同じようなピンクのカーディガンの長い袖で手の甲を隠し、指先だけちょんと出している。ゆるくウェーブのかかった栗色の髪をまとめたウサギの尻尾のようなポンポンを指先でいじって暇をもてあましていた。とろんと垂れた大きな目が不安げに細められていた。リップクリームで艶めいた唇もきゅっと一文字に結ばれている。
 幼馴染の春原リリ子だ。リリ子は俺を見てパッと立ち上がった。

「みっちゃん! お話、どうなった?」
「追放だって」

 目をまん丸にして、今度は、泣きそうに眉を下げて、丸く開いた唇はあわあわと震える。俺の腕を掴むと無意味にぐいぐい引いて、小ぶりなメロンくらいありそうな胸の谷間に押し込もうとする。抱き締め癖があるのだ。

「追放……って、た、退学!?」
「停学」
「で、でも、ど、どど、どうしよう! ママになんていえばいいの!」
「別に言う必要はないだろう。特例は俺だけだ。リリ子は学校に残ればいい」
「ダメっ! 私、みっちゃんと一緒にいるっ!」

 腕にしがみつかれる。柔らかい。まったくもって生物として構造の違う体である。お手本のように女性らしい体つきに対し、俺は男の中でも虚弱でガリガリなためコンプレックスが加速する。残念ながら俺は皮と骨しかないから骨格標本にしかなれない。

「リリ子は関係ないだろう」
「関係ないなんて言わないで。私、みっちゃんの幼馴染だもん」

 リリ子の大きな瞳がうるうると涙を溜めていた。自分のことのように困り果てているのだろう。
 不思議なことに、リリ子は自分のことを時折忘れる。例えば俺が研究につきっきりになると、自分が通常の学生であったことを忘れて授業をすっぽかして世話をする。俺が面倒臭くなってそこらへんに洗濯物を転がしていると、幼馴染ではなく母親だと思いこんでしまうようだ。

「俺と一緒にいてもいいことなんかないぞ」
「そんなことない。みっちゃんと一緒にいたい」
「だがな……」

 兄心として、リリ子には自分の幸せを優先して欲しいのだが。

「私、学校なんかいらないっ!」

 リリ子のよく通る声が廊下を突き抜けた。
 目が合う。
 いつもは頼りなさげな大きい瞳が、縁取りをしっかりさせて意志の強さを見せた。

「みっちゃんと一緒にいる。そしたらもっとお世話できるよね!」

 リリ子は案外、頑固なやつである。こうと決めたら何を言っても無駄だ。だから今日まで俺につきあってこられたのだろう。

「そうか」

 それしか言えなかった。俺は恐ろしく気が効かない。その上、自立心がなくて甘えっぽいのだ。時々自分が嫌になる。自分の手が震えていることに気がついた。

「そうだよ!」

 ぐっと顔の近くで拳を握るリリ子は、すっかりおたつくのをやめていた。覚悟を決めたときは女のほうが強く感じるのはなぜだろうか。それとも俺が特別に情けないだけなのだろうか。

「あ、ありがとう。一人にしないでくれて。学校を追い出されようが、飯が食えなかろうが、俺には興味ない。でも、一人は寂しい。一人は嫌だ。お、俺を一人にしないでくれ」

 拳を握った。リリ子がいる。垂れてきた水っ洟をすする。よかった。一人じゃない。

「大丈夫だよ。私がずぅ〜っと傍にいるよ」

 リリ子は優しく目を細めた。
 白い手がスッと伸びる。あやすように、ポンポンと頭を撫でられた。緊張と一緒にドッと涙が溢れてきた。


 ——ここから数ヶ月ほど記憶がない。


 気がついたら俺は薄暗い部屋で延々と机に向かい研究をしていた。
 研究をしている瞬間だけは、俺は一人じゃないのだ。

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立つ鳥 試し読み

(1)

 庭から風に乗って若葉が流れ込んできた。緑色を抓んで日に透かしていたら、小夜君が裸足をペタペタさせて歩く音がしてきた。

「さにわ、新しい仲間だよ。僕の兄にあたるそうだ」

 愛想のない切りっ放しの言葉。途端に興味をなくしたように、フイッと三白眼をそっぽに向けると、結い上げて跳ねた硬い髪の毛がたぬきのしっぽみたいに揺れた。

「……宗三左文字と言います」

 薄い唇の口角を強張るように吊り上げて笑い、神経質に掠れた早口で宗三さんは言った。痩身長躯、長い首がしな垂れるように俯いている。面長な輪郭、無気力に下がった眉、左右の色が違う力ない目、紫色の服が白い肌に反射して青ざめ見える肌。これが刀の九十九神と言われてもピンと来ないほど薄幸で病的な印象だ。

「ああ、小夜君のお兄さんですか! はじめまして。ここの審神者です。小夜君にはすごく世話になってます! 小夜君、今、隊長なんですよ。こんな小さいのにしっかりしててすごいんです!」
「そうですか。それはそれは……」

 宗三さんは軽く眉根を寄せ、道端の石ころでも見るようにチラリと横目で小夜君の姿を捉える。とても弟に向ける目ではない。

「えっと……皆で仲良く過ごしましょう。よろしくお願いします」

 宗三さん――いや、宗三の張り付いたお愛想的な薄ら笑いは、見下ろした私を冷たく鼻で笑うことにより嘲笑へと変わった。

「貴方も、天下人の象徴を侍らせたいのですか……?」

 ……はあ? この人、何言ってんの?

「あんたが新しいお仲間さん? いらっしゃーい! 俺は加州清光! 説明するから、ちょっとこっちきて!」

 廊下の向こうから最古参の加州君が呼びかけた。予定より早かったけれど、実にいいタイミングで来てくれた。助かった。

「では、失礼いたします」

 宗三は歌舞伎の女形みたいに小首を傾げるような品のいい会釈をした。ゆったり空気を揺らして、呼ばれた方へ去っていく。

「迷惑をかけるね」と、小夜君は宗三の後ろ姿を眺めて言う。
「変わった人だね。自意識過剰というか……あれ、なに?」
「僕の兄……とは言っても、あまり実感がない。同じ左文字ではあるけれど……あの人のことが、よくわからないんだ」

 小雨のように寂しげなとつとつとした喋り方はいつも通りだけれど、短い眉がほんのわずかに下がった。彼なりに兄弟に会えるのを楽しみにしていたのかもしれない。

「きっと仲良くなれるよ。大丈夫。頑張ればなんとかなる」

 自分にも言い聞かせる。私は指をこまねいておいでおいでした。
 小夜君は素直に駆け寄ってきた。丸い頭を撫でたら、小夜君は借りてきた猫みたいに縮こまって、困ったように私を見上げる。

「どうして僕のこと撫でるの……?」
「今は隊長のお仕事と重なって大変だよね。小夜君がかっこよく活躍できるように一生懸命考えるから、一緒に頑張ろうね!」
「……それはどうも……ありがとうございます。でも、僕はあなたの命令に従って殺してくるだけなので……活躍なんて……」
「えー。敬語はやめようよ! 他人みたいでさみしい〜!」

 私は小夜君にぎゅうと抱きつく。子供らしいお日様の匂いがした。華奢な体は腕の中で猫みたいにびくりと跳ねる。構いたがりに気疲れしたような、ささやかなため息が聞こえた。

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