ここ数日、私を避けていたねえさんを呼び出す。
いつも何も考えてなさそうなポーカーフェイスをしているが、今日は硬い表情をしているのはわかる。
「どうするか、決めた?」
「決めた」
「けど、その前にねえさんに聞きたいことがあるんだけど」
「なに」
「昨日、迅くんから、残るなら覚悟を決めろって言われて。
じゃぁ。
ねえさんの、覚悟ってなんだろうって思って。
何を理由に、戦うのかって、ちゃんと聞いたことなかったから」
ねえさんは、自分のことはあまり話さない。
聞いても適当にはぐらかされる。
でも今回ばかりは、ちゃんと話してくれるようだ。
「そうだな…。
見て見ぬふりが、できなくなったから、かな」
「見て見ぬふり…」
「うん。
たとえば、子供が赤信号を渡ろうとして、車に轢かれそうになっていたら、それを無視できるかって話」
「出来ないね」
「でしょう」
車と、近界民では規模が違う気もするが。
「そ、それだけ?」
「まぁ、わかりやすく言うとそれだけ」
「ねえさん、そんな人だっけ?」
こんなことを言うのもなんだが、ねえさんはとても冷めた目で世の中を見る人間だ。
手から滑り落ちたガラスが地面で粉々に割れるのを、わかっていて黙って見つめているような。
赤信号を渡る子供を助けるなんて、ちょっとイメージがなかった。
いや、流石に子供は助けるか。
そこまで薄情ではないはず。
「サイドエフェクトって知ってる?」
「あの迅くんの、未来が見えるってやつ?」
「そう」
「もしかして、ねえさんもあるの?」
確か、トリオン器官が優れている人に、まれに発現する特殊能力、みたいなことだったか。
ねえさんのトリオン器官が持て余すほど優れているのは数値データで明らかだ。
「ある」
「どんなの?」
「それは内緒」
やはり、肝心なところは話してくれない。
「とにかく、それのせいで、見て見ぬふりは出来なくなった。
だったらもう、地獄の果てだろうがボーダーと付き合う覚悟を決めた。
それが理由」
「地獄の果てまで、ルイは付き合わなくていい」
どうしょうもない人間のくせに、そういう事を言って、私を危険から遠ざけようとする。
でも私も決めたのだ。
この人を一人には出来ない。
それこそ、赤信号を渡る子供を見て見ぬふり出来るか、という話だ。
それが大切な親友であればなおさら。
「付き合うよ、どこまでも」
「泣くことになる」
「私が泣けば、ねえさんは地獄の果てからでも、戻ってきてくれるでしょう?」
放っておけば、地獄の果てで閻魔ともやり合うような人間だ。
生きて戻ってきてもらわないと。
見て見ぬふり出来ないから、私を引き離そうとしたのだ。
見えないところに追いやろうとしたのだ。
だから私はねえさんから、一番近く見える位置にいてやると、そう決めたのだ。
2014.07.10