|
夢、だと思っていた。こんな事、あっていい訳無い。明日はテストだ、勉強しなくちゃ。そう思っていたのに。どうやらこれは夢ではないらしい。(散々、ナイトメアに説明されて、漸く最近受け入れられる様になってきた。けどまだ認めたくない) それにしても、この世界の住人は皆常識が無さ過ぎる。皆頭がおかしい。出会い頭、挨拶代わりに銃を撃つし。人を好きになればなったで何だか頭がおかしいなりの愛し方をするし。アリスはペーターに付き纏われてもう嫌だ、と涙も枯らして疲れ果てていた。 私とアリスは良く話をする。この世界で唯一まともな現実感を持っているアリスにとって、同じく現実感を持っている私は良き友人であるらしい。それとユリウス。彼もこの世界の住人にしてはまともな神経を持っていた。(服の趣味には言及しない)彼もアリスにとっては良き友人であるらしい。私は余り話した事は無いけど、話した限りでは確かにまともな現実感を持っている人らしかった。 すう、と息を吸い込んで目を開ける。 「・・・なあに、エリオット」 「あれ、寝てたんじゃねーの?」 「寝て無いよ。ただ、ちょっと現実逃避したかっただけ」 兎耳の彼はきょと、と首を傾げて見せる。エリオットは――直ぐ銃を撃つし、ぶっそうな考え方をしてるけど、優しい子だ。とても、とてつもなく、優しい。彼は無意識に私を甘やかすのが好きみたいだ。 「それよりどうしたの。仕事は?」 「ああ、そうだ。俺、ブラッドに連れて来いって頼まれたんだ」 「・・・行きたくない」 「何でだ?」 至極不思議そうな顔をしてくれるが、当然じゃないか。私はあんな物騒過ぎる狂気的過ぎる頭のおかしい最先端を行っている様な男と、二人きりでなんか過ごしたくない。まあ、エリオットはブラッド大好きーだから、仕方無いと言えばそうかもしれないけど。 「美味しいお茶とかあるぜ?」 「・・・エリオット、私はね、アリスと一緒で元の世界に帰りたいの。だからブラッドみたいな男に慣れちゃうと、元の世界に帰った時に困るの。だから、」 「私の所へは来ない、と」 肩が思い切り揺れてしまった。振り返れば、いつの間に、ドアの所にブラッドが立っていた。エリオットは兎耳をピン!と立てて驚いている。(可愛い)そんなエリオットの耳を触りたいが、我慢してソファから立ち上がる。 「ブラッドは、私をどうしたいのか解らないから」 「私の所へ留めて、二度と何処へも行かせたくない」 「それが困るの。だって私は、元の世界に帰るから」 「帰らせない、と言ったら?」 「無理。だってブラッドは私の鎖にはなれない。此処へ縛る鎖にはなれないし、私はアリスみたいに揺れ動かない」 「ああ・・・あのお嬢さんか」 「そう」 アリスは私と同じでまともな現実感を持つ、リアリスト。でも、アリスは多分、この世界に残る。だってアリスは、多分――あの人の事が好きだから。アリスはただそれをまだ認めたくないだけなんだろう。まあ、でも、それも多分時間の問題だ。アリスのあの瓶の水が溜まるまでには帰る気を無くす位には親しくなっているだろう。 「私は、帰る」 「なら君が私を好きになる様にすればいい」 「・・・」 この自信は何処からやってくるんだ。アリスがペーターに辟易してるなら、私はブラッドに辟易としている。いつも纏わりついてくる双子以上に私はブラッドが苦手だ。引き摺り回されるのは嫌いだけど、ブラッドの言葉はもっと嫌いだ。 結局私は何の現実から逃げたいかと言えば、ブラッドの甘い言葉と言う現実から逃げたいんだ。私は元の世界に帰りたいとアリスの様に足掻いている。そして私は未だ、帰れる要素を持っている。私は帰りたいし、帰るんだ。だから、ブラッドの言葉なんか、大嫌いだ。 「なる、訳無いじゃない」 ブラッドは私の呻き声に肩を竦めた。 「とりあえず、お茶が冷めてしまう。庭で待っているからエリオットと来るといい」 「・・・」 「ブラッド、仕事はいいのかよ?」 「構わない。、もお前が来るなら来るだろう」 「よっしゃ!、行こうぜ!」 にんじんと名の付く料理名を歌いながらエリオットは私の手を取った。ああ、そうだ、確かに私はこの手を振り解けない。エリオットは優しいから。だけどブラッドの策略に乗せられるのは嫌だった。嫌だけど・・・、 「エリオット、ちょっと、足早い」 「あ、ワリィ」 エリオットの手は振り解けない。ああ、ブラッドの嘲笑う顔が目に浮かぶ。 |