もう出逢って10年かそれ以上経つ筈なのだが、会話をした記憶は本当に少ない。だから私はXANXUSの事で何か言える事は無い。あるとすれば彼は今、全てを憎んでいると言う事くらいだろうか。
いつも私が飲んでいるような安っぽい紅茶ではなく高級そうな匂いと味の紅茶はきっとXANXUSにとっては普通の物なのだろう。羨ましいような、そうじゃないような。
「次の仕事だ」
「人使い荒いね、XANXUS」
「煩ぇ」
XANXUSが投げて寄越したファイルにはターゲットの写真と簡単なプロフィール、そして事細かに書かれた行動傾向。今度はイタリア国内のようで案外早く終わりそうだ。
「そう言えば最近スクアーロを見てないけれど、そんな長期の仕事でも入ったの?」
「ハーフボンゴレリングだ」
「・・・え、・・・あ、あぁ。あのリング」
よく見るとXANXUSの指には半分だけのリングが嵌められていた。
停滞するXANXUSと二人きりの時だけの空気が私の肺に充満し、肺を殺そうと侵食を始めようと其処に漂っている。そうはさせまいと私の理性が大きく深呼吸をしてみせる。
「ねえ、XANXUS」
「あ?」
「スクアーロは、ハーフボンゴレリングを取りに行ったのよね」
「あぁ」
「もし失敗して、日本に行く事になったら――私も着いて行っていいかしら」
「・・・」
このカスが、と言いたげなXANXUSの目。ゆっくり瞬く私の瞳にXANXUSは何も言わず吐き出した。
「勝手にしろ。どうせ俺に言って駄目ならあの跳ね馬に言うんだろうが」
「流石XANXUS兄さんね。よく解ってる」
昔の呼び方で呼んでみせるとXANXUSはギラリと鋭い眼光で私を睨んだ。視線だけで射殺せてしまいそうな瞳に小さくと息を吐いた。
血など関係なく、私はXANXUSの事を兄だと慕っていたのに。
「今度その呼び方をしてみろ、お前でも殺すぞ」
「・・・ごめんなさい。XANXUS」
兄さん、心の中で今も呼び続けるその名前をXANXUSは知りはしないだろう。
昔々の話だ。まだXANXUSが自分はボンゴレ9代目の本当の子だと信じていた頃、まだ私は何も知らずに微笑んでいた頃。XANXUSに纏わりついて、その度に鬱陶しげな顔の中に笑顔を滲ませたXANXUSがいて、懐かしい光の中にいた頃。
9代目の本当の子である私だけには何かを許してくれた彼の笑顔は今、此処にはない。
「じゃあ、行って来るわ」
XANXUSは答えない。
ドアの前、ドアノブに手をかけながら振り返らず言った。
「ねえ、XANXUS」
「あ?」
「・・・昔みたいに、なんて言わないわ。だから・・・名前、呼んで欲しいの」
ドアノブを握る手が震えていた。
体が震えている。
足も震えている。
あの懐かしい日々、私は人間らしく微笑んでいた。昔の私を見たら骸だって“人間だ”と言って私を好きだだとかそんな事は言わないし、恭弥だって私の心臓を打ち抜く剣になりたいなんて言わなかっただろう。
「黙れ、カスが」
すう、と背中が凍る。
あの日はもう帰ってこないのに、私は何を求めていたのだろうか。
「それじゃあ、また。XANXUS」
うたかた、そしてブラックアウト。
2style.net